末期腎不全に対する腎代替療法のひとつである腹膜透析には、被嚢性腹膜硬化症という重大な合併症があるが、現時点では有効な治療法はなく、予後は極めて不良である。 研究代表者は、腹膜中皮細胞において、高濃度グルコース及びそれによって産生が刺激されるTGF-β1が腹膜線維化をおこすこと、さらには近位尿細管上皮細胞において、高分子ヒアルロン酸がTGF-βのシグナル伝達の抑制を介し、腎の線維化を抑制することを報告した。以上より、高分子ヒアルロン酸が被嚢性腹膜硬化症の発症に対し抑制的に作用する可能性が考えられる。 本研究ではラット腹膜線維化モデルにおいて高分子ヒアルロン酸に腹膜線維化を抑制する作用があるか否かについて検討する。そして、そのような作用が確認されれば、その至適投与量、至適投与濃度、至適投与時期を決定する。さらに、同実験系での高分子ヒアルロン酸によるTGF-β1のシグナル伝達抑制の詳細を明らかにする。 平成17年度計画の最大課題はラット腹膜線維化(肥厚)モデルの作成である。SD系、雄性、8齢週のラットの腹腔内に0.1%グルコン酸クロルヘキシジン+15%エタノール生食液を10ml/kgの割合で1日1回連日投与した。コントロール群には生理食塩水を10cc/kgの割合で同様に投与した。経時的な変化の観察および線維化の確認のため、7、14、21、28daysでそれぞれラットを屠殺し、腹膜組織の検体を採取した。採取した腹膜組織に、各種染色を施し、腹膜肥厚の程度を検討した。腹腔内投与の際に腹腔内出血、腹膜を固定する際のサンプルの収縮など、評価できるモデルを作成するのに工夫を要した。結果としては、腹膜が経時的に肥厚することが明らかになった。特にdays28では、コラーゲン線維の増生とtype III collagenの染色性の増強が確認された。今回作製できたラット腹膜線維化(肥厚)モデルは被嚢性腹膜硬化症の良いモデルと評価でき、今後の更なる研究に用いることが可能である。
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