末期腎不全に対する腎代替療法のひとつである腹膜透析には、被嚢性腹膜硬化症という重大な合併症があるが、現時点では有効な治療法はなく、予後は極めて不良である。 研究代表者は、腹膜中皮細胞において、高濃度グルコース及びそれによって産生が刺激されるTGF-β1が腹膜線維化をおこすこと、さらには近位尿細管上皮細胞において、高分子ヒアルロン酸がTGF-βのシグナル伝達の抑制を介し、腎の線維化を抑制することを報告した。以上より、高分子ヒアルロン酸が被嚢性腹膜硬化症の発症に対し抑制的に作用する可能性が考えられる。 本研究ではラット腹膜線維化モデルにおいて高分子ヒアルロン酸に腹膜線維化を抑制する作用およびその至適投与量、至適投与濃度、至適投与時期を決定し、さらに、同実験系での高分子ヒアルロン酸によるTGF-β1のシグナル伝達抑制の詳細を明らかにすることを目的とした。 平成18年度は、平成17年度に作成したラット腹膜線維化モデルを用いて腹腔内にヒアルロン酸を投与した。ヒアルロン酸投与は、モデル作成初日および投与2週間後から1日1回連日とした。投与するヒアルロン酸の濃度は、0.25%、0.025%、0.0025%、0.00025%の濃度の4群に分けて比較検討した。さらに、投与するヒアルロン酸は、平均分子量200万Daの高分子のみならず、平均分子量80万Da、30万Daの中分子、平均分子量1600Daの低分子ヒアルロン酸も用いた。 低分子ヒアルロン酸や低濃度のヒアルロン酸投与時には、腹膜線維化を抑制できないことは、研究開始前から予想された結果であったが、高分子かつ高濃度のヒアルロン酸を投与したにもかかわらず、腹膜線維化は全く抑制できず、ヒアルロン酸の効果を実証することができなかった。
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