研究概要 |
腎疾患の予後には、糸球体病変よりも間質尿細管障害(TID)が重要である事が広く知られている。私たちは、TIDの進行には、脂肪酸ストレスが関与している事を基礎実験で明らかにした。そこで、ヒト近位尿細管に発現する肝臓型脂肪酸結合蛋白(L-FABP)に注目した。L-FABPは、脂肪酸以外に過酸化脂質と結合する事が知られており、抗酸化ストレス作用を有することが推測される。肝臓において、L-FABPが酸化ストレスを軽減する事が報告されており、腎臓でも同様の機能が想定される。 本研究では、進行性TIDモデルである一側尿管結紮モデル(UUO)におけるL-FABPの腎保護作用を明らかにする事を目的とした。 WtとTgのそれぞれにUUOを作成した。UUOのTgの腎臓(Tg-UUO)では、sham ope Tgの腎臓に比べ、L-FABPの遺伝子・蛋白発現が有意に亢進した。UUOのWtの腎臓(Wt-UUO)とsham ope Wtの腎臓では、L-FABPの発現を認めなかった。腎臓でのMCP-1,TGF-βの発現、間質へのマクロファージ浸潤、コラーゲンtype Iの沈着、TIDの程度は、Wt-UUOに比べTg-UUOで有意に抑制された。またWt-UUOでは、早期の酸化ストレスを反映するHO-1の遺伝子発現が、Tg-UUOに比べ有意に亢進した。さらにWt-UUOでは、過酸化脂質の蓄積が認められたが、Tg-UUOでは認められなかった。これらの結果より、腎臓に発現するL-FABPは、酸化ストレスを軽減し、UUOによるTIDの進行抑制に関与すると考えられた。 結論としてL-FABPは、腎疾患の進行に重要なTIDの進行を抑制すると考えられる。今後、L-FABPの発現増強薬による腎疾患治療の開発が期待される。
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