研究概要 |
腎疾患の予後には、糸球体病変よりも間質尿細管障害(TID)が重要である事が注目されている。TIDの進展には、酸化ストレスが関与していることが知られている。ヒト近位尿細管には、抗酸化作用を有する肝臓型脂肪酸結合蛋白(L-FABP)が発現しているが、腎疾患における役割は明らかでない。そこで、げっ歯類にはL-FABPが発現していないため、ヒトL-FABP染色体遺伝子導入マウス(Tg)を使用し、酸化ストレスがTIDの進行に関与する事が知られているSTZ糖尿病(DM)モデルにおけるL-FABPの腎保護作用を検討した。 方法:野生型マウス(Wt)とTgのそれぞれの左腎臓を摘出し、1週間後にSTZ(120mg/Kg,48時間おきに3回)を腹腔内投与した。その後、8,14週間後に腎臓を摘出し、形態学的検討、遺伝子・蛋白発現解析をおこなった。 結果:STZを投与したTgの腎臓(Tg-DM)では、コントロールTgの腎臓に比べ、有意にL-FABPの蛋白・遺伝子発現は亢進した。8週間後の腎臓でのMCP-1,MCP-3,コラーゲンType I, TGF-βの発現、間質へのマクロファージ浸潤、コラーゲンtype Iの沈着、TIDの程度は、STZを投与したWtの腎臓(Wt-DM)に比べTg-DMで有意に抑制された。またWt-DMでは、早期の酸化ストレスを反映するHO-1の遺伝子発現が、Tg-DMに比べ有意に亢進した。 考察:これらの結果より、腎臓に発現するL-FABPは、酸化ストレスを軽減し、DMによるTIDの進行抑制に関与すると考えられた。 結論:L-FABPは、腎疾患の進行に重要なTIDの進行を抑制すると考えられる。今後、L-FABPの発現増強薬による新しい腎疾患治療薬の開発が期待される。
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