本研究は、メタボリックシンドロームの発症機序における自律神経機能の役割について検討するとともに、自律神経学的見地から本症候群に対する新たなる予防法、治療法を考案することを目的とするものである。 平成17年度はまず、インスリン抵抗性や他の動脈硬化危険因子を持たない器質的自律神経機能障害を有する患者20名について、血中のレニン、アンギオテンシン、インスリンやアディポネクチン値を測定し、健常者のデータと比較検討するとともに、これらのデータと自律神経障害度との相関について検討した。検討の結果、器質的自律神経機能障害を有する患者においては、健常者に比し血中アディポネクチン濃度が低下傾向にあり(p=0.0514)、健常者に認められる男女差(男性:女性=1:1.9)が消失していた。さらに、これらの患者における血中アディポネクチン濃度と自律神経障害度には比較的強い負の相関を認めた(r=-0.64)。これらの結果は、メタボリックシンドロームの発症に関連の深いアディポネクチンの分泌・制御機構に自律神経機能が大きく関与している可能性を示唆するものである。 今後は、交感神経を特異的、可逆的に障害する6-hydroxydopamineを投与し、作製した自律神経障害モデルラットを用い、アディポネクチンの分泌・制御機構と自律神経機能の関係についてさらなる研究を行うとともに、組織学的手法により脂肪組織と自律神経との関係についても検討し、メタボリックシンドロームの発症機序における自律神経機能の役割について、より詳細に解明していく予定である。さらに、研究の最終段階として、in vitroでの治療実験(培養脂肪細胞にカテコールアミンやその関連物質、及びその他の各種自律神経薬を作用させ、アディポネクチンの分泌を高めることができるか検討する)も予定している。
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