我々はこれまでに臨床上、先天性全身性脂肪萎縮症と診断された9例の日本人症例を対象に、これまでに先天性全身性脂肪萎縮症の原因遺伝子として報告されているセイピン遺伝子およびAGPAT2(1-acyl-sn-glycerol-3-phosphate acyltransferase 2)遺伝子について遺伝子変異の検索を行った。セイピン、AGPAT2の両遺伝子について翻訳領域およびスプライシングドナーサイトの全塩基配列をサイクルシークエンス法にて決定した。その結果7症例のセイピン遺伝子にホモ接合体の変異が認められた。一方、AGPAT2遺伝子については9症例のいずれの遺伝子にも変異は認められなかった。結果、2例の症例についてはセイピン、AGPAT2の両遺伝子に変異が認められず、第三の先天性全身性脂肪萎縮症の原因遺伝子の存在が示唆された。またセイピン遺伝子変異を有する7症例と原因遺伝子の不明な2症例について表現型の比較を行った。DEXA(Dual energy x-ray absorptiometry)法により測定した体脂肪率、MRI T1強調画像により評価した体脂肪分布、レプチンをはじめとする脂肪組織由来生理活性物質(アディポサイトカイン)の血中濃度はいずれも2群間で明らかな差は認められなかった。一方、耐糖能や黒色表皮腫、脂肪肝、蛋白尿などの合併症の重症度については同じセイピン遺伝子変異を有する症例の中でも幅があり、脂肪萎縮からくる糖尿病の発症に関してはその他の遺伝的背景の影響も重要であることが示唆された。
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