膵幹細胞マーカーの同定は、膵臓発生やβ細胞の再生機構を解析する上で非常に重要である。Pdx1は胎児期における膵幹細胞マーカーとして知られているが、成体膵ではβ細胞に発現しているため、成体においては膵幹細胞マーカーであるとは言えない。そこで申請者は胎児期から成体において一貫して膵幹細胞に発現し続けるマーカー分子を探索した。我々の研究室では、既にES細胞からPdx1を発現する細胞を高効率に分化誘導する系を確立している(白木、吉田ら、投稿中)。申請者は、このPdx1陽性細胞に分化誘導したES細胞を純化しジーンチップ解析を行い、発現が亢進している遺伝子についてマウスでの発現パターンを検討し、膵幹細胞であるかどうかを調べるスクリーニグを行った。 その結果、申請者は膵幹細胞マーカー候補である遺伝子を見いだした。その遺伝子は、胎児期においてはPdx1陽性膵幹細胞に発現し、その後Pdx1とは異なる細胞に発現がずれていった。成体膵においては、Pdx1陽性β細胞ではなく一部の導管細胞に発現していた。この遺伝子が発現している導管細胞が膵幹細胞であるかどうかを調べるために、膵部分切除を行うことにより膵再生を誘導した状態でそれらの細胞がどのような挙動を示すかを観察した。すると、それらの細胞はまず導管細胞に結合するDBAへの結合性がなくなり(導管細胞の性質の喪失)、その後アミラーゼを発現した(外分泌細胞への分化)。この結果は、成体膵においてこれらの細胞が外分泌細胞の再生に関与していることを示している。よって、これらの細胞は膵幹細胞であると考えられた。よって当該遺伝子は、胎児期から成体まで一貫して膵幹細胞に発現するマーカー分子であると言える。このような遺伝子の報告はなく、この遺伝子の発見は膵再生の研究に貢献することが期待される。
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