甲状腺ホルモンは生体において多くの組織、臓器の発達や恒常性の維持において重要である。その作用は核受容体スーパーファミリーの一つである甲状腺ホルモン受容体(TR)を介して行われている。TR-βの転写調節機構において転写共役因子、コアクチベーターとコリプレッサーの重要性は既知の事実であるが生体内での詳しい動態、メカニズムについては未だ不明な点が多かった。そこで我々はTR-βのリガンド結合領域AF-2領域に変異を持ち、リガンド結合とコリプレッサーの結合には影響ないが、コアクチベーター(CoA)との結合が障害されたE457A変異体に注目し、その解析を行うことにした。 TR-β遺伝子にE457A変異を組み込んだターゲティングベクターを作製し、ES細胞における相同遺伝子組み換え法を用いてノックインマウスを作製した。ターゲティングベクターにはACNカセットが導入されている。ACNカセットはBuntingらによって作製され、tACEプロモーターに誘導されるCre-loxPシステムにより、キメラマウスの精子形成過程でネオマイシン耐性遺伝子を含むカセット自体を自己切断、除去でき効率良く変異動物を得ることが出来る。キメラマウス作製を経て、C57/BL6との交配を行い、TR-β遺伝子にGS125変異を有したヘテロ接合体、ホモ接合体を作製した。 得られた変異マウスの成長、体格、体重、妊娠、出産、授乳などを観察し、野生型マウスと比較したところ明らかな差は認められなかった。 甲状腺ホルモンが関わる重要な生命活動のうち、特に視床下部-下垂体-甲状腺の負のフィードバック機構におけるTR-βと転写共役因子群との関わりについて、血中甲状腺ホルモン、甲状腺刺激ホルモン(TSH)値をラジオイムノアッセイにて測定し、甲状腺ホルモン不応症の存在が明らかとなった。またノーザンブロット解析によりTSHのmRNA発現レベルにおいて甲状腺の負のフィードバック機構は破綻していた。
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