オレキシンA(5pmol)を内側視床下部に投与すると、骨格筋において有意にグルコースの取り込みが上昇した。しかし、外側視床下部や室傍核に投与しても、有意な変化は見られなかった。また、内側視床下部へのオレキシン投与により、摂食量および自発運動量には有意な変化がなかったが、骨格筋におけるノルアドレナリン代謝回転が亢進した。さらに、交感神経系阻害剤であるグアネチジンを前投与すると、オレキシンによるグルコース取り込み促進作用が低下したため、骨格筋におけるオレキシンのグルコース取り込み促進作用は、摂食行動や自発的な運動などの影響ではなく、視床下部-交感神経系を介したものと考えられる。 次に、インスリン投与によるグルコースの取り込みに及ぼすオレキシンの効果を検討した。インスリンによる骨格筋でのグルコースの取り込みは、オレキシン投与により促進した。これらの実験において、白色脂肪組織では有意な変化は見られなかった。また、オレキシン投与により、血中インスリンレベルに変化はなかった。以上の結果は、オレキシンは内側視床下部に作用して、骨格筋におけるインスリン感受性を高めることを示唆する。 骨格筋における交感神経の作用が、アドレナリンのα受容体を介した作用かβ受容体を介した作用かを調べるため、β受容体のすべてのサブタイプ(β_1、β_2、β_3)を欠損しているβ受容体遺伝子欠損(β-less)マウスを用いて検討した。β-lessマウスの内側視床下部にオレキシンを投与すると、骨格筋におけるノルアドレナリン代謝回転は亢進するものの、グルコースの取り込みには変化がなかった。 以上の結果より、オレキシンは内側視床下部に作用して交感神経系を活性化し、アドレナリンβ受容体を介して骨格筋でのグルコース取り込みを促進する可能性が考えられる。
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