当初、硫酸化糖脂質での研究を行う予定であったが、製造元の問題で予定量の入手が困難であったため、同じ硫酸化糖である硫酸化コロミン酸(N-acetylneuraminic acidのポリマーに硫酸基を付加したもの)にて、造血幹細胞移動についての研究を行った。 まず、硫酸化コロミン酸をマウスに静脈注射すると、末梢血中の造血前駆細胞数が投与後30分をピークに増加(これを動員とよぶ)することが明らかになった。メカニズムとして、造血前駆細胞上に発現しているケモカイン受容体CXCR4の作用増強効果があり、また、ケモカインSDF-1の末梢血中の濃度の上昇をもたらし、これらの相乗効果による動員効果であることが考えられた。この薬剤の臨床応用の可能性を探るため、現在造血幹細胞動員剤として使われているサイトカインG-CSFとの併用効果を調べた。通常のG-CSF4日間投与に採血30分前に硫酸化コロミン酸を静脈注射することにより、G-CSF単独群の約5倍の動員効果が得られた。また、G-CSF2日投与に硫酸化コロミン酸を追加投与することにより、G-CSF4日間投与するのと同様の造血前駆細胞の動員効果を認め、競合的骨髄移植実験にて長期造血維持能を持った造血幹細胞の動員も同様におこっていることも確認した。すなわち、保険適応となっている移植のためのG-CSFによる末梢血幹細胞動員は、現在の入院での4-5日投与ではなく、外来で2日間にて行える可能性があることが示された。
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