「研究の目的」 新規硫酸化糖による造血幹細胞の骨髄から末梢血への動員効果とそのメカニズムのマウスモデルでの検討。 「研究成果」 当初の予定であったsynthetic sulfatideは実験に十分な量の入手が困難であったため、代わりに新規合成硫酸化多糖類である硫酸化コロミン酸(sulfated colominic acid: SCA)を用いて検討を進めた。仮説通り、SCAに急速な造血幹細胞動員効果があることを発見し、これが造血幹細胞の移動に深く関わっているケモカインSDF-1の生体内分布の変化と、造血幹細胞上に発現しているSDF-1受容体(CXCR4)の働きの増強を惹起する結果、動員がおこることがほぼ明らかとなった。以上が平成17年度に行った研究成果である。平成18年度には、これらの現象のメカニズムをさらに深く追求することを予定していた。CXCR4の作用増強に関しての検討で、SCA処理によりligand-induced receptor internalizationが抑制されるためであることを突き止めた。白血球表面レクチンの一つであるL-selectinからのシグナルで同様の効果が見られることが過去に報告されているが、我々の検討ではSCAはP-selectinには結合するものの、L-selectinには結合しないことが明らかとなった。また、動員剤としての将来的な臨床応用のため、現在臨床で使われているサイトカインG-CSFとの併用効果を検討したところ、SCAは著明な動員増強効果を示した。特に、これは造血前駆細胞レベルのみでなく、移植後6ヶ月の長期にわたって造血を担い続ける造血幹細胞レベルの動員増強にも働いていることを証明した。以上より、SCAは動員効率の飛躍的な上昇と、G-CSFの必要量の低減を見込める有用な薬剤である可能性が高いことが明らかとなった。
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