本年度は特に白血病細胞株を用いて、STA73/NF-κB複合体の影響を解析する事を目的として研究を行った。細胞株としてJurkat、 HU778 (T細胞白血病株)、HUT102、M1、M2、M4 (HTLV-1陽性T細胞白血病株)などを用いた。これらの細胞における転写因子の活性化をゲルシフト法により解析したところ、恒常的なSTA73及びNF-κBの活性化が観察された。しかしながらその活性化の程度には細胞により違いがあった。 HUT102細胞ではSTA73/NF-κB複合体が無刺激の状態で弱いながらも形成されていることがウエスタンブロッティングにより観察された。STA73/NF-κB複合体を誘導することができるプラスミドpFM289(これはTRAF6の288番目までのN末端配列を欠損した変異体で、更にそのN末端側にSrcファミリー分子が持つ特徴的な配列'ミリストイレーション'を遺伝子的に導入したものである)をトランスフェクションし過剰発現させたところ、より多くのSTA73/NF-κB複合体が誘導された。 血管新生に関与する事が知られているVEGF遺伝子はIL-6及びSTA73により活性化されることが知られている。そのリポータープラスミドを用いてルシフェラーゼアッサイを行ったところ、pFM289プラスミドは顕著にその活性を阻害することが確認された。更には、 pFM289はミリストイレーション付加をしていない変異体に比べ、より効果的な阻害様式を呈していた。またpFM289はcanonicalなNF-κBの活性化も抑制した。 以上より、腫瘍性増殖に重要と考えられるSTA73とNF-κBの経路に対し、pFM289は効率よく抑制できる事が示唆された。今後は白血病細胞の増殖をin vivoシステムで解析し、より詳細なメカニズムの探求・治療への応用を検討したいと考えている。
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