研究概要 |
(背景と目的)インビトロ血管新生の培養系に血清を微量加えることで、血清のもつ血管内皮細胞増殖能や毛細血管形成能を知ることができるが、この系を用い病態解析や治療効果判定における本検査の有用性を検討した。 (方法)培養ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)を使用した。患者検体として、後天性心疾患の代表である川崎病の血清を収集した。肺疾患は収集中。本年度は、22例の凍結血清を使用した。22例中、10例が免疫グロブリン療法(IVIG)反応例、12例がIVIG不応例で冠動脈瘤を併発していた。細胞外基質成分をゲル化したGrowth factor reduced-Matrigelでコートしたプレート上にHUVECを播種、培養した。形成された血管長の合計を画像解析にて計算,定量評価した。全ての実験において同一の健常成人血清をアッセイ間の対照血清として用い、形成された血管長を100%として算出した。 (結果と考察)IVIG反応例:治療前血清によるHUVEC管腔形成能は、健常小児例ならびに有熱疾患血清によるHUVEC管腔形成能と有意差を認めなかった。IVIG不応例:治療前血清におけるHUVEC管腔形成能は、健常血清や有熱対照血清に比べて既に有意な低下が見られた。更に、初回IVIG療法後の患者血清による刺激下では、対照血清のみならずIVIG反応例のIVIG療法後血清によるHUVEC管腔形成能と比しても、有意な低下がみられた。臨床症状との関連:このようなHUVECの機能障害を惹起するIVIG不応例の血清採取時期は約10病日で、臨床的に、浮腫が強く低アルブミン血症を呈し冠動脈拡張が始まる時期でもあり、実験結果と臨床像は良く相関していた。また、心筋梗塞と急性心不全を合併した重症患者2例では、この発作時の血清によるHUVECの管腔形成は全くみられなかった。このように、冠動脈の炎症や心筋虚血では、血清による血管新生機能が障害され、臨床経過とよく相関がみられた。次年度以降の実験として、動物ではマウスをLPS処理しARDSに似た状態を惹起させ、現在、これらの血清サンプルを収集している。
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