昨年度の研究成果から、SAP145のRNAへの結合特異性がRNA配列にほとんど依存しないことが判明し、SAP145とdys-ESE19の結合特異性だけでアンチセンス治療法のメカニズムを説明することが困難となった。そこで本年度は、さらに元となる疑問まで立ち返り、そもそもエクソン19はなぜdys-ESE19を必要とするのか?、に関する研究を行った。 昨年度作成したエクソン18-19-20からなるスプライシング解析用レポーター遺伝子を改変し、エクソン19上流のスプライスコンセンサス配列の一部であるポリピリミジントラクトに関して、dys-ESE19存在下、非存在下での配列要求性を解析した。驚いたことに、dys-ESE19存在下では、必須とされていたポリミジントラクトに配列要求性がほとんど見られず、ポリプリン以外ならどのような配列でも正常にスプライシングされることが判明した。このことは、培養細胞でレポーター遺伝子を発現させる実験で判明した事実であるが、同様の実験を無細胞系(in vitro splicing)で行ったところ、無細胞系ではESE活性が細胞内より低く評価された。これらより、 1.エクソンにESEが存在する場合、上流側ポリピリミジントラクトはほとんど必要ない 2.ポリピリミジントラクトの重要性が本来より高く評価されていた理由は、これまでのスプライシング実験の多くが無細胞系で行われていたためと推定される の2点が明らかとなり、また、今回の結果をもとにジストロフィン遺伝子の配列を検索した結果、 3.ジストロフィン遺伝子の全79エクソンのうち、約3分の2はESEに依存してスプライシングされると推定される、即ち、アンチセンス治療法のターゲットになりうる ことを明らかにした。
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