注意欠陥/多動性障害(AD/HD)に処方されるメチルフェニデート(MPH)などの薬剤はノルエピネフリン(NE)神経系へ作用することが知られている。今回、AD/HDの病態におけるNEの関与に注目し、脳のNE神経の主座である青斑核(LC)ニューロンの神経活動とα_2-adrenoceptor (α_2R)の反応性について、whole-cell patch clamp法を用い、AD/HDモデルラットである高血圧自然発症ラット(SHR)と対照ラット(Wistar Kyoto ; WKY)の間で比較検討した。WKYのLCニューロンでは静止膜電位(51.4±0.63mV)において2.14±0.53Hzの自発性活動電位の発射が観察されたが、SHRの静止膜電位は有意に浅く(-47.7±0.39mV)、活動電位の発射頻度は低かった(0.64±0.24Hz)。α_2R作動薬クロニジン誘起電流はWKYで49.0±9.4pA、SHRで44.6±5.2pAであり、α_2R阻害薬ヨヒンビン誘起電流はWKY;18.7±7.4pA vs. SHR;17.0±5.7pAで両者間に有意差はない。しかしWKYとSHRでのNE誘起外向き電流は、10μMで41.7±5.3pA vs. 24.7±2.9pA、100μMで96.3±9.5pA vs. 50.2±7.3pAとSHRで有意に(p<0.05)小さかった。一般にシナプス間隙のNE濃度はNEトランスポーター(NET)により調節されている。α_2R作動薬やα_2R阻害薬の作用に差はないがNEの作用に差があることから、WKYとSHRではNETの働きに違いがあることを示唆している。現在、NET過活動によるNE伝達不全がAD/HDの病態の一因であるとの仮説に基づいて研究を進めている。
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