本研究では、注意欠陥/多動性障害(ADIHD)に特徴的な行動と類似した行動特性をもつ高血圧自然発症ラット (SHRAzm)と対照ラットWistar Kyoto(WKYAzm)を用いて、電気生理学的研究を行った。SHR及びWKYから新鮮脳スライス標本(230μm)を作製し、whole-cell patch-clamp法を用いて、中枢神経系におけるノルエピネフリン(NE)神経の主座である青斑核(LC)ニューロンに対するメチルフェニデート(MPH)の作用を両者で比較検討した。MPH(30μM)を潅流投与すると、WKYは記録した細胞のほとんどで(12例中11例)膜コンダクタンスの上昇を伴うMPH誘起外向き電流(30.9±4.1 pA)、を発生した。一方SHRでは、22例中14例でWKYと同程度の外向き電流(31.7±3.0 pA)を発生させたが、膜コンダクタンスの変化は観察されなかった。また22例中6例では膜コンダクタンスの減少を伴う内向き電流(16.85±4.4pA)を発生させた。残り2例は膜電流に変化を及ぼさなかった。そこでBa^<2+>(100μM)存在下においてMPHを潅流投与したところ、 MPH誘起電流はほぼ抑制され、 K^+チャネル以外のチャネルの活性化を示唆する結果は得られなかった。これまでの結果から、SHRではNE誘起電流及びドーパミン誘起電流の大きさがWKYより有意に減弱していた。さらに今回、 MPHに対する作用の違いが両者間で観察された。従って、中枢神経系におけるこれらの神経伝達物質に関連した機能、あるいはトランスポーターの機能に違いがあることは示唆された。しかし、その詳細なメカニズムについては、今後もこれらの神経伝達物質やトランスポーター機能に注目して研究を進める必要がある。
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