本研究では、統合失調症の前駆期を含む精神病発症危険群を抽出し、この一群に対して有効な介入方法や治療サービス、前方視的な予後予測を開発していくことを目的としている。このために精神病発症危険群により高い頻度で認められる特徴的な認知機能異常や微細な精神症状を調べ、精神病発症危険群の効果的な診断や評価を行う。 本年は、関係諸機関に精神病発症危険群について理解してもらい、より効率的に対象者を発見できるように専門家と対象者向けのパンフレットを作成し、これを近隣の関係機関に配布し、相談者には専門相談窓口で応対した。 平成18年3月末までに12名が東北大学病院精神科で、症状評価マニュアルCAARMS日本語版を用いて、精神病発症危険群の基準に当てはまるか否かが判定された。12名のうち、5名は専門評価を目的に他施設から紹介されてきた。12名中7名が精神病発症危険群の基準を満たし、2名が既に統合失調症を発症していた。閾値下の軽度精神病性症状群の基準を満たした者は5名、短期間欠性精神病群は2名、脆弱群は2名であった(複数該当2名)。平均5ヶ月の経過観察中に2名が統合失調症を発症した。 治療は可能な限り抗精神病薬投与を控えるようにしたが、精神症状が著しく不安定な場合には少量の抗精神病薬投与を行った。認知療法については英国のモリソンとフレンチらのテキストを翻訳し、これに準じた治療を試みた。該当症例にはコンピュータ版心理検査を含んだ認知機能検査を行った。精神病発症危険群では、ごく軽度の認知機能の低下を認めた。抗精神病薬を用いない治療法によっても、一部の症例では精神病性症状の軽減を認めた。
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