本研究では、統合失調症の前駆期を含む精神病発症危険群を抽出し、この一群に対して有効な介入方法や治療サービス、前方視的な予後予測を開発していくことを目的としている。このために精神病発症危険群により高い頻度で認められる特徴的な認知機能異常や微細な精神症状を調べ、精神病発症危険群の効果的な診断や評価を行う。 昨年度に引き続き、精神病発症危険群の患者を専門外来を通して集め、精神症状評価と認知機能検査を実施し、症例に応じて薬物療法や認知療法を行った。 平成19年2月上旬までに51例の評価を行った。このうち、61%にあたる31例が精神病発症危険群の基準を満たし、多くは軽度の精神病様症状を示していた。8例は既に精神病を発症していた。併存する精神症状についてDSM-IV-TRによる診断を行ったところ、不安障害圏が21例、気分障害圏が8例で、特に社会不安障害が併存する症例が多かった。精神病発症危険群の平均年齢は20.3歳と若く学生が多数を占めた。機能の全体的評価(GAF)は平均48.5と低く、ベック抑うつ尺度や状態特性不安検査の値も高く、自覚的に高い抑うつや不安を示した。診断評価に用いるアットリスク精神状態の包括評価CAARMSの日本語版については、高い評価者間信頼性を得ており、陽性陰性症状尺度との相関でも高い妥当性を得た。認知機能検査では、視覚性記憶や実行機能検査で低下を認めたが、既に精神病を発症して来院した群と比べると成績の低下は著しいものではなかった。6ヶ月以上経過を追うことができた12例について、インテイク時と6ヶ月時の症状や認知機能成績を評価したところ、統計的に有意に症状や認知機能の改善を認めており、治療介入による一定の効果が示された。 経過中の精神病への移行者は3例であったが、まだ経過追跡期間が短い症例もあり、正確なデータの把握のためには今後のより長い追跡調査が必要と考えられた。
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