(1)健常高齢者40人を対象に、脳画像としてT_2強調画像および拡散強調画像を、また早期動脈硬化の指標として頚動脈中内膜肥厚度を計測した。結果、T_2強調画像上の深部白質におけるマルチフラクタル次元と頚動脈中内膜肥厚度、またマルチフラクタル次元と脳白質における脱髄の指標となるADC値の間にそれぞれ関連性を認めた。これらの結果はマルチフラクタル解析が、高齢者の視察的には正常である白質の早期動脈硬化を背景とする微細な構造変化の抽出を可能にし、またこれらの微細な構造変化の背景には脳白質の脱髄が関与する可能性が示唆された。 (2)統合失調症患者15人、健常者15人を対象にT_2強調画像を施行し、両側の脳深部白質においてマルチフラクタル解析を行った。結果健常者では、マルチフラクタル次元において、左優位の非対称性を認めたのに対し、統合失調症患者ではマルチフラクタル次元における左右半球間の非対称性はみられなかった。またこの非対称性は、患者の病期、服薬量、精神症状(BPRS)、認知機能(Trail Making)と無関係であった。健常者におけるマルチフラクタル次元の左優位の非対称性は、脳機能および構造における、いわゆるnormal left-greater-than-light asymmetryを表す結果と考えられる。更に、統合失調症患者におけるマルチフラクタル次元の非対称性の欠如は、これまでの統合失調症患者でしばしば報告されているloss of normal left greater-than-light-asymmetryと一致する結果であると考えられる。これらの結果は、T_2強調画像深部白質のマルチフラクタル解析が統合失調症患者における神経発達のメカニズムの解明において重要な役割を担う可能性を示唆するものと考えられる。
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