フラクタルの概念は、従来困難であった生体組織に包含される複雑な非線形構造の定量化を可能にし、様々な分野で応用されている。医用画像の分野においても、生体組織への新たなスケールをもたらすことから、病変の抽出や評価などでの高い有用性が報告されている。近年では、フラクタルの概念を一般化したマルチフラクタルを用いた解析が試みられており、より複雑な構造の特徴抽出が試みられている。 申請者は、マルチフラクタルを用いてT_2-MRI脳白質における信号強度の分布の特徴を抽出することで、白質の内部構造にまで言及した下記の2つの研究を行った。 1.健常高齢者の脳動脈硬化性病変への適用:本研究では、視察的に異常を認めない脳白質のマルチフラクタル次元を算出し、初期動脈硬化の有用な指標である頚部動脈肥厚度との関係について、動脈硬化性危険因子との関連性も含めて検討した。結果、マルチフラクタル次元は頚部動脈肥厚度と相関し、高齢者脳白質のマルチフラクタル解析が脳の初期動脈硬化性病変の抽出において有用であることが示唆された。 2.統合失調症への適用:統合失調症患者および健常者を対象に、脳白質におけるマルチフラクタル次元を算出し、臨床症状との関連性も含めて比較検討を行った。結果、健常者ではマルチフラクタル次元において、いわゆる"左優位性"を認める一方、統合失調症では健常者でみられた"左優位性"の欠如を認めた。また統合失調症患者では、前頭葉白質における"左優位性"の低さと脳梁のマルチフラクタル次元が臨床症状と関連することが示された。これらの結果から、統合失調症の病態メカニズムの解明にマルチフラクタル解析が有用であることぶ示唆された。 本研究課題を通して、マルチフラクタル解析が肉眼的には認識できない微細な信号の変化の抽出を可能にし、動脈硬化性病変や統合失調症における脳白質異常の早期抽出を可能にすることが明らかとなった。
|