本研究では遅発性ジスキネジア(TD)に対する必須脂肪酸の有効性について検討した。TDを有する統合失調症患者に対し、必須脂肪酸であるイコサペント酸エチル(以下、EPA)18OOμg/日を24週間投与し、投与前後での不随意運動についてAbnormal Involuntary Movement Scale(AIMS)を用いて評価した。被検者はEPAの投与開始までリスペリドンを主剤とした向精神薬を長期に渡り投与されていた。主に上肢の強い振戦が認められ、投与前のAIMSでは7点(40満点)であった。投与前の精神症状はPositive and Negative Syndrome Scaleにて合計57点(210満点)、陽性症状評価尺度で10点(49満点)、陰性症状19点(49満点)であり、陰性症状が主体の患者であった。EPA投与開始後8週の時点では、AIMSでは5点で不随意運動の改善を認めていたが、投与終了時点(24週)のAIMSは8点であり、投与開始時に比べ症状の変化は見られなかった。 EmsleyらはTDを有する統合失調・失調感情障害の患者84名を対象としてEPAのTDに対する有効性を二重盲検比較試験にて検討している(Schizophr Res.2006)。これによるとEPA2000μgを12週間投与後、プラセボ投与群とEPA投与群との問にTDの改善度の差は見られなかったという。TDに対しEPAの効果が見られなかったことについてEmsleyらは、EPAの投与量が少なかったことや被検者のTDの罹患期間が長いことなどを挙げている。本研究ではEPAの投与量が1800μgであることや、患者のTDの罹患期間が34年間と長かったため、EPAのTDに対する効果が得られなかった可能性がある。今後はより高用量のEPAの投与やTDの罹患期間の短い患者に対するEPAの効果の検討が必要と考えられる。
|