Mitogen-activated protein (MAP) kinase系のうつ病への関与を検討するため、うつ病治療のひとつである電気けいれん療法の動物モデルを用いた。電気けいれんのラット海馬歯状回での細胞新生に対する効果とMEK阻害薬の前処置の効果を調べた。まず、MEK阻害薬U0126をラット片側海馬歯状回に局所投与することで同側のextracellular signal-regulated kinase(ERK)1、2の電気けいれんによるリン酸化亢進がほぼ完全に抑制されることを確認した。ラットにU0126あるいは溶媒を一側海馬歯状回局所投与後、電気けいれんあるいは通電無しの疑似処置を与えた。その後、bromodeoxyuridine(BrdU)を投与し、新生細胞DNAをラベルした。4週後、灌流固定し、抗BrdU抗体を用いて免疫染色を行い、新生細胞を定量化した。溶媒投与けいれん無しでは1858±232cells/DG、けいれん有りでは3672±446cells/DGと単回の電気けいれんにより海馬歯状回の新生細胞数は2倍に増加していた。MEK阻害薬の前処置+けいれんでは2489±184cells/DGであり、その増加は有意に抑制された。また、対側の海馬歯状回においては電気けいれんにより細胞新生はおよそ4倍に増加していたが、U0126投与による抑制効果は見られなかった。このことにより、電気けいれんによる海馬歯状回の新生細胞増加がMAP kinase系を介していることが示された。今後は得られたサンプルを用い各種細胞マーカーを調べることによりMEK阻害薬の海馬での細胞分化に対する影響を検討する予定である。また、強制水泳試験など抗うつ効果に関連する行動の変化を検討していきたいと考えている。
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