ゲノム不安定性に深く関与している転移因子は、挿入などによって遺伝子構造および発現に影響を及ぼし、これまでに32疾患の病因として報告されている。統合失調症においても、ゲノム不安定性および染色体脆弱性は古くから関連が議論され、近年では患者内ゲノムにおけるメチル化異常などが明らかとなり、活性化転移因子によるゲノム構造変異が推測される現象は数多く報告されている。よって、われわれは統合失調症にメチル化異常に伴うゲノム不安定性、とりわけ転移因子の動態が深く関与しているとの仮説を提唱し、本研究では統合失調症の病因としての転移因子の役割を明らかにすることを試みた。本年度は、胎生期脳において転移活性を持つ転移因子のスクリーニングを行い、さらにその患者特異的挿入領域の同定を試みた。胎生期脳内活性化転移因子の選抜では、レトロポゾン2種、DNA型トランスポゾン12種について、胎児脳由来cDNAライブラリーをテンプレートに用いたPCRスクリーニングを行った。その結果、ほぼすべての転移因子において胎生期脳での転移活性が認められた。次に、選抜された転移因子のうち、Tigger1の患者特異的新規挿入領域の同定を試みた。統合失調症トリオゲノムDNA(患者とその両親)10組を対象に、Tigger特異的プライマーを用いたDNA Walking法を行い、得られた患者特異的PCR産物の塩基配列を決定した。その結果、5組21クローンの患者特異的新規挿入領域が得られた。現在、得られた配列をもとにDNA Walking法による二次スクリーニングを行っている。
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