内在性変異原であるヒト転移因子は、挿入および欠失などによって遺伝子の構造変異を引き起こし、系統進化に大きく寄与してきた。通常、転移因子はメチル化によって強く抑制されているが、その新規挿入が48の疾患の直接的な病因として報告されている。統合失調症においても、ゲノム不安定性および染色体脆弱性は古くから関連が議論され、近年では患者内ゲノムにおけるメチル化異常などが明らかとなり、活性化転移因子によるゲノム構造変異が推測される現象は数多く報告されている。以上のことから、われわれは統合失調症にメチル化異常に伴うゲノム不安定性、とりわけ転移因子の動態が深く関与しているとの仮説を提唱し、本研究では統合失調症の病因としての転移因子の役割を明らかにすることを目的とした。本年度は、昨年度に引き続いて患者特異的な転移因子挿入領域の同定を試みた。転移因子Tigger1を対象としたDNA Walking法による一次スクリーニングによって得られた統合失調症トリオ5組21クローンの患者特異的新規挿入領域について、得られたそれぞれの配列をもとに二次スクリーニングを行った。統合失調症トリオゲノムDNA5組を対象に、新規挿入領域特異的プライマーを用いてDNA Walking法を行い、得られた患者特異的増幅産物の配列決定を行った。さらに、昨年度において選抜したTigger以外の転移因子についても、新規挿入領域の検出法を検討した。統合失調症トリオゲノムDNA(患者とその両親)を対象に、DNA Walking法の他、制限酵素消化を組み合わせたNested PCR法も併用することで、患者特異的な新規挿入領域の検出を目指し、患者ゲノム内における転移因子の動態とその疾患への関与についての考察をまとめていく。
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