統合失調症の認知障害として、注意の転導や散乱といった聴覚事象認知に対する注意機能の障害がある。本研究は、統合失調症患者の聴覚性注意機能に関わる脳内ネットワークの障害を検討することを目的とした。われわれが日常で行っている状況に類似した選択的聴取に対する脳活動を惹起させるために、連続音声を聴覚刺激として用いた課題を作製した。課題は次の3条件を設定した。(1)ターゲットとなる人物のみの連続音声。(2)ターゲットおよび別の人物(別の人物はターゲットとは異性)の連続音声。(3)(2)と同様の条件(別の人物は同性)。課題はMRI用ヘッドホンによって呈示し、被験者にはターゲットの音声に注意して聴取することを指示した。各条件後に単語を視覚呈示し、その単語がターゲットの音声中にあったかどうかをボタン押しさせることで成績を評価した。機能的MRIデータは、blood oxygenation level-dependent(BOLD)法を用いて、gradient EPIシーケンスで撮影することによって得た。本年度は、主に健常者を対象に撮影を行い検討し、以下の結果を得た。健常者における選択的聴取の賦活領域は、両側上・中側頭回を中心とした領域で左優位であった。また右優位に中・下前頭回および楔前部を含む頭頂領域でも賦活が見られた。健常者の知見が十分蓄積したので、現在は統合失調症患者を対象にデータ収集を開始している。インフォームド・コンセントを得たうえで倫理面に配慮し検査を行っている。今後、健常者データと比較し、さらに患者の神経生理学的所見を含めた検討により、病態と注意機能障害との関係を明らかにする。また、脳形態画像あるいは血清生化学マーカーを用いた統合失調症の病態が報告されてきているため、このような因子と脳機能との関連性を検討すべく、同時に測定を行う予定である。
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