PETの技術は脳内における薬物の分布や結合を鋭敏かつ効率的に評価できるという優れた点を有しており、生体における薬物評価法として重要な役割を担うようになってきている。PETを用いた向精神薬の脳内動態を評価する際に、生体内で調査対象である薬剤が受容体に結合している程度をPETトレーサーの特異結合の減少から占有率として評価する方法が用いられている。抗うつ薬の受容体あるいはトランスポーターに対する占有を調査したPET研究は少ないが、これまでの研究によると臨床用量の選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)で80%のセロトニントランスポーター(SERT)占有が生じており、抗うつ効果の発現に80%のSERT占有率が必要と提言されている。セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)のSERT占有について調査するため、われわれはSNRIであるmilancipranで治療されているうつ病患者4名についてセロトニントランスポーターの占有率を測定した。研究に際して、倫理委員会から承認を受けた上で、被験者に対して口頭および書面を用いた説明を行い文書による同意を得た。[11C]DASBを用いたPET検査により、milnacipran のSERT占有率は線条体ては一日投与量100mgで平均42.1%、150mgで57.4%、視床では100mgで38.3%、150mgで59.7%であった。この結果から、一日投与量150mgのmilnacipranでは、SSRIの抗うつ作用に必要とされているセロトニントランスポーター占有率80%に達していないことが明らかになった。以上から、milnacipranの用量設定が低い可能性、あるいはSNRIであるmilnacipranの抗うつ作用はセロトニントランスポーター占有だけではなくノルエピネフリントランスポーターへの占有も考慮する必要性が考えられた。
|