平成17年度は、L-セリンからD-セリンを合成する酵素をコードしているセリンラセマーゼを解析の対象とし、まず5'-RACE (Rapid Amplification of cDNA Ends)法を用いて転写開始点およびプロモーター領域の確定を行った。興味深いことに、この遺伝子は脳では転写開始点の違いにより少なくとも4種類のmRNAアイソフォームが存在することが判明した。次に、すべてのアイソフォームをカバーするゲノム領域の変異検索、SNP (single nucleotide polymorphism)データベース検索から、4つのSNPを同定した。これらのうち2つは多型性が低かったので、その後の解析からはずした。残り2つのSNPを用いて統合失調症との関連を独立した3つのサンプルパネル(1つは家系サンプル、残り2つはケースコントロールサンプル)で検討した。結果は、統合失調症への関連を認めなかった。さらに、セリンラセマーゼのSNPと血清中D-セリンの濃度との関連を調べたが、これも相関を認めなかった。第2の候補遺伝子として、D-セリンを分解する酵素であるD-アミノ酸オキシダーゼを取り上げ、上記と同じように統合失調症に対する関連および血清中D-セリンの濃度との相関を調べたが、結果はネガティブであった。ただ、今回血清中D-セリンの濃度を統合失調症と正常対照群で比較したところ、Hashimotoらが2003年に報告したように、統合失調症でD-セリン濃度の低下、全セリン中のD-セリンの割合の低下を再現した。以上の結果から、統合失調症におけるD-セリン代謝の障害は確かに存在するが、責任遺伝子はさらに他のものを検索していく必要があると思われた。
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