平成18年度は、L-セリンからD-セリンを合成する酵素をコードしているセリンラセマーゼについて、マウスの遺伝子を解析した。平成17年度のヒト遺伝子解析と同様に、まず5'-RACE(Rapid Amplification of cDNA Ends)法を用いて転写開始点およびプロモーター領域の確定を行った。興味深いことに、この遺伝子は脳では転写開始点の違いにより少なくとも5種類のmRNAアイソフォームが存在することが判明した(ヒトでは4種類)。そして、少なくとも2種類のプロモーターがあることが示唆された。次に、アイソフォーム毎に、脳における発現を前頭葉、海馬の2箇所で、オス・メス、そして胎生期、成人期の異なる発達段階で調べた。その結果、各アイソフォームの発現は、領域特異的、発達段階特異的に制御されていることが判明した。近郊系マウスのC57B/6(B6)とC3H/He(C3)の間で、統合失調症のエンドフェノタイプと言われているプレパルス抑制(PPI)に差があることを見いだしたが、PPIが低いC3系統では、アイソフォーム1+2の合計の発現量がB6に比較して、前頭葉、海馬の両部位で有意に減少していることを見いだした。さらに、両系統でセリンラセマーゼをコードするゲノム領域の変異検索を行ったところ、プロモーターと思われる領域に1つのSNP(single nucleotide polymorphism)を検出した。今後は、(1)このSNPが機能的意味を持つか、(2)ヒトサンプルで、血中D-セリン濃度とPPIは相関するか、に焦点を当てて解析することが重要と考えられた。
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