自閉症を含む発達障害患者では、スパイン形態の異常がみられることが以前より報告されており、症状発現のメカニズムに寄与していることが予想されるが、その分子メカニズムについては解明されてこなかった。そこで、自閉症モデル動物を用いて、発達期に見られるシナプス形成異常のメカニズムを分子レベルで解明したいと考えた。 結節性硬化症は、その原因遺伝子TSC1およびTSC2に変異があるため、脳内に結節を形成するとともに、高率に自閉症を合併することが知られている。最近、TSC2に変異があると、その下流のmTOR(ラパマイシンのターゲット分子)を介して、蛋白合成が亢進することが報告された。この蛋白合成系はニューロンの樹状突起にも存在するので、自閉症患者にみられるシナプス形成異常に関与する可能性がある。そこで、TSC2変異ラット(Ekerラット)の後シナプス樹状突起棘(スパイン)の形態を比較した。正常およびEkerラットの生後5-7日目に海馬を摘出し、スライス培養を行った。7日から10日後に蛍光蛋白の発現ベクターをニューロンへエレクトロポレーション法を用いて強制発現させた。2週間後に固定し、共焦点レーザー顕微鏡でスパインを観察したところ正常ラットと比較してスパインの形態異常が起こることを確認した。ここで、mTORの働きを阻害したところ、シナプス形態異常に改善がみられたので、この系の異常が、自閉症患者にみられるシナプス形成異常に関与していると考えられた。
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