自閉症スペクトラムを含む発達障害患者において、行動異常とともにスパイン形態やスパイン数の異常がみられる。その物質的背景については不明であったが、最近になって自閉症多発家系を対象とした遺伝子多系の解析により、神経接着分子Neuroligin-3の451番目のアミノ酸変異が見出された。また、この変異体をラットの海馬ニューロンに遺伝子導入したところ、スパイン形態異常が観察された。これらの結果は、ヒトにおいてシナプス形成に関与している蛋白質(分子)の異常と精神症状発現が直接関与することを示している。従って、シナプス形成に関わる分子の詳細な解析を行うことは、学習や記憶のメカニズムのみならず、ヒトの発達障害や精神疾患の病態解明に繋がる可能性が高い。結節性硬化症は、その原因遺伝子TSC1およびTSC2に変異があるため、脳内に結節を形成するとともに、高率に自閉症を合併することが知られている。最近、TSC2に変異があると、その下流のcTOR(ラパマイシンのターゲット分子)を介して、蛋白合成が亢進することが報告された。そこで、自閉症モデルとしてTSC2変異ラット(Ekerラット)の海馬初代培養ニューロンのスパイン形態を正常ラットと比較したところ、スパイン数の増加し、スパイン長の伸張や、スパイン幅の増大などの形態異常が起こることを確認した。ここでmTORの働きをrapamycinを用いて阻害したところ、シナプス形態異常に改善がみられたので、この系の異常が、自閉症患者にみられるシナプス形成異常に関与していると考えられた。次に、Ekerラットにおいて、正常ラットと比べて合成が亢進している蛋白質を質量分析計で解析し、いくつかの候補分子を同定したので、今後、更に詳細な解析を行う予定である。
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