研究概要 |
重イオン照射による高い殺細胞効果の機序や,照射細胞から非照射細胞へのシグナル伝達により誘発される,いわゆるバイスタンダー効果の分子機構は十分に解明されていない.本研究では,ヒト固形癌細胞株において重イオンビーム照射後のバイスタンダー効果を中心に,重イオンビーム照射による細胞死の機序を検討した.細胞は高密度に培養したヒト非小細胞肺癌由来細胞株であるA549を用いた.X線照射は群馬大学大学院のMBR-1505(日立社製,150kVp,92.89cGy/分),重イオン照射は日本原子力研究所高崎研究所TIARAの深度制御種子照射装置(ブロードビーム)および細胞局部照射装置(マイクロビーム)にておこなった.照射後の細胞生残率はコロニー形成法により検討した.X線照射による,D_0/D_<10>は1.59Gy/4.00Gyであったが,ブロードビームを用いた実験から,^<12>C^<5+>(LET=108keV/μm)のD_0/D_<10>は1.23Gy/2.39Gyであった.マイクロビームを用いた実験で選択的にディッシュ内にある約5×10^5細胞中の1つの細胞にのみ照射した際の細胞生残率は非照射細胞とほぼ同様であった.しかし,ディッシュ内の5細胞あるいは25細胞に対し,^<12>C^<5+>イオン(LET=103keV/μm)をマイクロビームでそれぞれ5個あるいは10個ずつ照射すると細胞全体の生残率が非照射細胞に比較し10-15%低下した(p<0.05).この結果から重イオン照射による高い殺細胞効果と細胞死のメカニズムへのバイスタンダー効果の関与が示唆された.現在論文執筆中であるが,今後さらに今回認められた細胞死のバックグラウンドについて,細胞間橋を介した細胞同士のコミュニケーションやNOなどの細胞間の伝達物質の存在について検討予定である.
|