脳循環障害や神経変性疾患において、生理機能を保った神経細胞を特異的に描出することが、適切な治療や病態解明のために重要である。脳には神経細胞のほか、その約10倍ものグリア細胞が存在する。よって、神経細胞選択的なエネルギー代謝イメージング法を開発するためには、神経細胞特異的なエネルギー基質を標的にする必要がある。 これまでに我々は、脳スライスのイメージングシステムを用い、脳の活動時には神経細胞はブドウ糖だけでなくグリア細胞で作られた乳酸も利用していることを見いだした。そこで、乳酸代謝を画像化する核医学イメージング剤を用いれば、神経細胞の活動を非侵襲的に描出することができると考え、[^<18>F]L-fluorolactateを合成することとした。まず、[^<18>F]L-fluoroalanineを合成後、酵素反応により[^<18>F]L-fluorolactateへと変換することを試みたが、合成時に^<18>Fが脱離し目的物は得られなかった。そこで、methyl-(2S)-glycidate(1)を用いて、エポキシ開環反応を伴ったF化を試みることとした。まず、非放射性のKFを用いて検討したところ、Kryptofix222存在下アセトニトリル中で加熱することにより、反応がわずかに進行した。酸性条件では開環反応が促進されると考え酢酸を加えたところ、効率よく進行した。次に、本反応条件を、物質量が極微量であり、水溶液で得られるため完全な無水反応が困難である[^<18>F]KFによる標識合成へと適用した。アセトニトリル(0.5mL)中に、[^<18>F]KFに対して大過剰量である20μmolの1を溶解し標識を試みたが反応は進行しなかった。そこで、1の濃度が低いことに問題があると考え、1mmolの1を用いて検討したところ、放射化学的収率約5%で^<18>F標識体を得ることに成功した。 今後、さらなる条件検討を行い収率の上昇を図ることにより、[^<18>F]L-fluorolactatelによるPETでの乳酸代謝イメージングが可能になると考える。
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