研究概要 |
脳循環障害や神経変性疾患において、生理機能を保った神経細胞を特異的に描出することが、適切な治療や病態解明のために重要である。脳には神経細胞のほか、その約10倍ものグリア細胞が存在する。よって、神経細胞選択的なエネルギー代謝イメージング法を開発するためには、神経細胞特異的なエネルギー基質を標的にする必要がある。 これまでに我々は、脳スライスのイメージングシステムを用い、脳の活動時には神経細胞はブドウ糖だけでなくグリア細胞で作られた乳酸も利用していることを見いだした。そこで、乳酸代謝を画像化する核医学イメージング剤を用いれば、神経細胞の活動を非侵襲的に描出することができると考え、[^<18>F]L-fluorolactateの合成・利用を検討してきた。 本年度は、in vivoで検証することとし、脳エネルギー源としての乳酸の役割について[^<18>F]FDG-PETを指標とし検討を行った。20匹のラットを麻酔群、無麻酔群に分け、各群をさらに乳酸投与群、コントロール群に分け(n=5)、[^<18>F]FDG(7.4MBq)を投与後45分間、動物用PET装置にてdynamic PET撮像を行った。得られた画像から速度定数(K1,k2,k3,k4)を求め、CMRglcを計算した。無麻酔群において、乳酸の投与によりCMRglcが有意に上昇した(乳酸投与群:55.1μmol/100g/min、コントロール群:39.7μmol/100g/min)。一方、麻酔群においては乳酸投与による影響は観察されなかった(乳酸投与群:37.1μmol/100g/min、コントロール群:35.3μmol/100g/min)。さらに、無麻酔群においてk3は上昇傾向が認められた。 神経細胞がグルコースの代わりとしてエネルギー源に乳酸を利用するならば、神経細胞の活動が活発な無麻酔群においては、乳酸負荷によりグルコース利用能が低下することとなる。しかしながら、本検討では無麻酔群においてk3およびCMRglcの上昇が観察された。乳酸が糖代謝を活性化する原因について、乳酸の取り込み阻害剤を用いて現在さらに検討を進めている。
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