本研究の目的は、がんが転移・浸潤するときに細胞内で生じている分子事象、すなわち転移・浸潤に関与するシグナル伝達の亢進やタンパク質発現の増加をインビボで、かつそれぞれを区別してイメージングする手法を開発することである。具体的には、転移開始のキーステップであると考えられる細胞接着因子E-カドヘリンの発現消失を誘導し、その後に生じるβ-カテニンシグナル伝達経路の亢進や細胞増殖能の変化を、生物発光と放射線という異なるモダリティを組み合わせることにより、各過程を区別してイメージングを行うことを計画している。E-カドヘリンの発現消失を誘導するために、転写抑制因子であるSnailを細胞に導入することを計画し、当該年度はそれをコードするプラスミドを大腸菌に組み込んだ。β-カテニンシグナル伝達経路の亢進は、β-カテニン依存的にルシフェラーゼを発現するプラスミドpTOPFLASHを細胞に一過性に導入し、ルシフェラーゼアッセイを行うことで評価した。またウェスタンブロットにより、細胞質と核でのβ-カテニン発現の評価も合わせて行った。細胞増殖能は放射線を用いて評価することを計画し、汎用性の観点からSPECTの使用を考慮に入れ、核酸誘導体である[^<123>I]ITdUを選択した。当該年度は基礎検討に用いるため、半減期が長く取り扱いが容易な^<125>Iを用いて標識を行い、スズ前駆体に酸化剤としてヨウ素の存在下、^<125>Iを作用させることで、放射性化学的収率19%、放射性化学的純度97%で[^<125>I]ITdUを合成する方法を確立した。
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