本研究の目的は、がんが転移・浸潤するときに細胞内で生じている分子事象、すなわち転移・浸潤に関与するシグナル伝達の亢進やタンパク質発現の増加をインビボで、かつそれぞれを区別してイメージングする手法を開発することである。 E-カドヘリンの転写抑制因子であるSnailを細胞に導入することで細胞接着を阻害して転移を誘導することを計画し、まずはそのベクターを細胞内に有効に送達するための膜透過配列の検討を行った。細胞膜透過のためには正電荷を有することが重要であることから、蛍光タンパク質であるEGFPにリジンを9つ結合させたK9-EGFPを構築し、その膜透過能をFACSを用いて評価した。比較対照としては、既存の膜透過配列であるHIV Tatペプチド由来の配列を結合させたTat-EGFP、何も結合させていないEGFPを使用した。その結果、Tat-EGFP、K9-EGFPはEGFPに比べてそれぞれ4倍、8倍と高く細胞内に移行し、K9がTatよりも有用であることが明らかとなった。 また本研究課題では、がんの転移・浸潤の際に細胞内で生じている複数の事象を、それぞれを区別して捉えることを目標としていることから、光と放射線を併用したイメージングの可能性について基礎検討を行った。HeLa細胞を移植したヌードマウスに対して、K9-EGFPを蛍光色素で標識したプローブあるいはI-123で標識したプローブを投与し、光イメージング装置とガンマカメラで撮像したところ、どちらのプローブも類似の体内動態を示し、腫瘍のイメージングが達成できた。今後、これらの成果をさらに発展させることで、がんの転移・浸潤に伴う分子事象のマルチモダリティイメージングが可能となると考えられる。
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