研究概要 |
今回の研究では,悪性腫瘍に対する放射線治療や抗がん剤治療の抵抗性獲得に関与する低酸素環境に関して,通常環境下の培養細胞と低酸素環境下の培養細胞の間で,増殖・生存に関連したシグナル伝達の変化,放射線感受性,分子標的薬剤と放射線照射との併用効果,などがどのような差異として現れるのか明らかにすることを目的としている.まず,低酸素環境下での細胞動態を明らかにすること,つまり低酸素環境下での培養腫瘍細胞の生存状態や増殖速度がどのように変化するのかを明らかにするために,通常環境下での培養腫瘍細胞の生存状態,増殖速度ならびに照射後の再増殖までの時間を検討した.それと並行し,本研究を遂行するのに,最も適切と考えられる低酸素環境がどの程度のものであるのかを1%や5%などの低酸素環境で腫瘍細胞を培養し,その初期変化をみている.今回の研究に用いている培養腫瘍細胞の一つであるヒト扁平上皮癌細胞株(A431)での通常環境下での結果では,細胞増殖速度に関してはcell count法でのdoubling timeは23〜24時間,生存率を検討するコロニー形成法でみたPlating Efficiency(PE)は80%程度であった.2Gy,4Gy,6Gy,8Gy,10Gyの各照射後の再増殖の変化としてはcell count法でみると,6Gy以上の照射群でも24時間から48時間の間で再増殖を認め,照射後の細胞周期の変化は,レーザースキャニングサイトメータを用いた結果ではG2/M blockを認めた.また,照射処理後の増殖・生存に関連したシグナル伝達の変化としてはEGFR・c-erbB2ともにリン酸化が増強した.さらに,現在は低酸素環境下での実験を,上記以外の通常環境下で得られた結果を踏まえながら,今回の研究の目的を達するべく実験などを継続している.
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