低酸素環境下にある悪性腫瘍の、放射線に対する抵抗性獲得のメカニズムを解明するための一つの基礎データとなることを本研究の最終目標として、実験を進めてきている。実際は、通常環境下ならびに低酸素環境下で培養しているそれぞれの腫瘍細胞株で、生存能・増殖能などの細胞動態や放射線感受性の相違を、それに関与する生存・増殖シグナルあるいは細胞死関連シグナルの発現変化を検討し、低酸素環境下にある放射線抵抗性腫瘍細胞の放射線増感に役立つ分子標的薬剤があるかどうかの検討をしている。まずは、5%O_2ならびに1%O_2の低酸素環境下での増殖能などの細胞動態および放射線感受性についての研究であるが、外陰癌由来のヒト扁平上皮癌細胞株であるA431では、5%O_2の低酸素環境下においてもcell count法を用いたdoubling timeで22-24時間程度と通常環境下のA431と比較し明らかな増殖抑制は認めず、生存率を検討するコロニー形成法でみたPlating Efficiencyも約80%と通常環境下と比較して明らかな変化があるとはいえなかった。一方、A431の通常環境下の2Gy、4Gy、6Gy、8Gy、10Gyの各照射後の再増殖の変化をcell count法を用いてみてみると、4Gy以下の照射群では24時間以内に再増殖を認め、照射後の細胞周期の変化としてはG2/M blockを、増殖・生存に関連したシグナル伝達の変化としてはEGFRならびにHER2/neuのリン酸化の増強を認めた。また、肺癌由来のヒト腺癌細胞株であるA549細胞に関してみると、5%O_2の低酸素環境下では明らかな増殖抑制は認められなかったものの、1%O_2の低酸素環境下では増殖抑制を認めた。これらの結果を踏まえて、1%O_2の低酸素環境下にて、EGFRならびにHER2/neuの分子標的薬剤処理を併用した実験を継続している。
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