(1)背景 多くの癌組織、癌細胞のmtDNAに体細胞変異が蓄積していることが明らかにされている。この体細胞変異の蓄積が、癌の促進に関与したために変異mtDNAをもっ癌細胞が多くなったのか、明らかにされ、アポトーシスの抑制効果の結果であることが判明したので、抗癌剤への耐性へのミトコンドリアDNAの役割を明らかにしようとした。 (2)サイブリドの作製 細胞には核ゲノムとミトコンドリアゲノムが共存しているので、mtDNAの役割を明らかにするためには、核が共通でmtDNAだけが異なる細胞を比較しなければならない。そこで、mtDNAを消失しているHeLa細胞と脱核した細胞質を融合し、核が共通で正常mtDNAをもつ細胞と変異mtDNAをもつ細胞を作製した。この融合細胞を細胞質の融合であるのでサイブリド(cybrid)と呼ぶ。このサイブリドを用いて、mtDNAの癌のアポトーシ耐性効果、抗癌剤への耐性効果を調べた。 (3)抗癌剤へ対する耐性獲得とmtDNA変異 mtDNA変異によってアポトーシスが抑制されたので、抗癌剤への耐性へのmtDNAの役割についてサイブリドを用いて解析した。変異mtDNAをもつサイブリドは正常mtDNAをもつサイブリドよりも抗癌剤耐性であることをフローサイトメーターにより明らかにした。抗癌剤はシスプラチンと5-フルオロウラシンを用いた。 (4)温熱効果 変異mtDNAをもつ癌細胞への抗癌剤の作用を改善するために、温熱処理と抗癌剤処理を併用させた。するとmtDNAに変異がある場合でも、抗癌剤の効果が改善された。すなわち、mtDNAに変異がある場合には、抗癌剤と温熱療法を併用すると効果的であることを示唆された。
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