義歯などの高密度物質の周辺では後方散乱により20%-40%の過線量(擾乱)が誘発されることが報告されており、その影響は予期せぬ傷害に寄与することが懸念されている。I-125永久挿入治療は中リスク群前立腺癌に対しては外部照射併用で行われるが、小線源治療とのタイミングや照射法についてのコンセンサスはない。しかし、小線源治療後に外部照射を行う場合、市販の治療計画装置ではすでに刺入された高密度の線源による線量増加が反映されないため、その線量を評価する必要がある。本研究では高精度線量計算(モンテカルロ法)システムを構築することにより、高密度物質の線量分布、あるいはリスク臓器への寄与を明らかにし、また最適な照射法やタイミングの物理学的なエビデンスについて検討した。 まず、モンテカルロ計算精度に影響するシード刺入後のCT画像のメタルアーチファクトの除去法を考案し、そのCT画像でGEANT4 codeを用いて線量計算を行った。また、模擬線源を80個刺入できる前立腺ファントムを独自に作成し、ガラス線量計およびフィルムを用いた実測を行った。 その結果、1門照射では線源近傍で最大10%の過大線量になることがモンテカルロ計算により明らかになった。これは尿道や直腸線量の増加に寄与しうると考えられた。そこで、実臨床に近い、多数の線源が存在する前立腺ファントムに多門照射を行った場合の線量の増加を調べるために、モンテカルロ計算アルゴリズムを組み込んだ線量計算ソフトを開発した。ファントム多門照射にすることによって、この影響は散乱による線量増加と吸収による線量減少により相殺される傾向があることが判明した。この結果からI-125線源挿入後の前立腺への外部照射でも、多門照射を行うことで線量増加による直腸や膀胱の障害が起きる可能性は少ないことが示唆された。
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