近年HER2やEGFRをはじめとする膜受容体型チロシンキナーゼ/PI3-キナーゼ/Akt経路の活性化がアポトーシス抑制や治療抵抗性と関連があることが明らかになり、この経路の活性化を抑制することが、新たな治療標的として注目されている。従って、乳癌における膜受容体型チロシンキナーゼ/PI3キナーゼ/Akt経路の活性化を正確に評価することは、薬物療法の効果を予測し、新たな治療標的分子を同定する上で非常に重要であると考えられる。本研究では、乳癌組織におけるHER2発現、Akt活性化、ホルモン受容体の発現、PTEN遺伝子異常などを免疫組織化学的手法、分子生物学的手法を用いて解析し、臨床病理学的因子との関連を解析した。また、Akt経路の活性化と乳癌に対するホルモン治療効果との関連について、術後ホルモン治療を受けた症例の予後、あるいはホルモン治療を受けた転移性乳癌患者の奏効率とAkt活性化との関連を詳細に検討した。その結果、Aktの活性化はHER2の過剰発現やPTEN遺伝子のLOHと相関し、ホルモン受容体発現と逆相関を示すことが明らかになった。また、術後ホルモン治療を受けた症例において、Akt活性化の認められる症例の予後が不良であること、転移性乳癌においてもAkt活性化の認められる症例において有意に奏効率、臨床的効果が低いことが明らかになった。これらの結果から膜受容体型チロシンキナーゼ/PI3キナーゼ/Akt経路の活性化はホルモン治療抵抗性と関連し、この経路を制御することによりホルモン治療効果が改善する可能性が示唆された。現在、Akt経路の活性化と抗癌剤感受性との関連について術前化学療法症例でのプロスペクティブな解析を進めるとともに、乳癌組織における膜受容体型チロシンキナーゼ/PI3キナーゼ/Akt経路の下流についても詳細な解析を進めている。
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