研究概要 |
【背景】 「低酸素性血管拡張における赤血球の役割」が近年大きな話題となっている(Stamler et al.,Science 1997;276:2034-7)。組織における酸素の需要および供給のバランスがどのようにコントロールされているのか不明である。 【研究目的】 本研究では「赤血球が周囲の酸素需要を感知し、ATPを血管拡張のシグナルとして放出し、局所の血流を調節することで適切な酸素供給を行っている可能性」について検討する。具体的には、(1)ATPの放出が何により規定されているのか(特にヘモグロビンの四次構造との関係において)、また、(2)赤血球から放出されたATPが実際に血管拡張を起こすか(血管拡張を起こすのに必要十分な量であるか)を明らかにする。低酸素時に起こる血管拡張が、Stamlerらのいう赤血球からのNO放出ではなく、ATP放出によって起こっていることの証明が最終的な目的である。 【研究結果】 (1)-I 赤血球からのATPの放出は低酸素時に有意に増加していた。(1)-II ヘモグロビンに一酸化炭素(CO)を結合させてR-stateに固定した場合に低酸素性のATP放出反応は有意に抑制された。(1)-III ヘモグロビンのα鎖に一酸化窒素(NO)を結合させてT-stateとした場合、低酸素刺激がない場合でもATPの放出を認めた。(2)現在、赤血球から放出されたATPが実際に血管拡張を起こすか(血管拡張を起こすのに必要十分な量であるか)を分離灌流血管を用いたモデルにおいて検討中である。 【今後の展望】 本研究は「ヘモグロビンのアロステリー(構造・機能相関)に修飾を加えることで、局所の血流を人為的に制御できる可能性」を示唆するものであり、将来救急救命、外科侵襲学領域への幅広い応用が期待される。
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