膵癌は、消化器癌の中でも最も予後の期待できないものの一つであり、その浸潤や転移の解明や生物学悪性度の評価が重要とされている。本研究では、種々のがん組織で糖鎖の発現に変化が起きていることに注目し、膵癌組織における糖鎖分布とその臨床的意義を明らかにすることを目的とした。過去12年間に当科で切除した膵腫瘍検体(膵頭部癌62症例、膵体部癌21症例、膵管内乳頭腺腫24症例)のホルマリン標本を使用し、これを薄切後、糖鎖認識プローブとして各種のレクチンやモノクローナル抗体を用いた免疫染色を実施した。また、膵管内乳頭粘液産生腫瘍に関しても同様の免疫染色を実施した。その結果、シアル酸含有糖鎖を抗原の一部とするモノクローナル抗体で認識される糖鎖抗原の発現が、ほとんどの膵癌組織で陽性となった。一方、正常膵組織では全く染色されず、膵管内で一部陽性となるのみであった。また、膵管内乳頭腺腫でも、この糖鎖抗原の発現は陰性であった。このことから、このモノクローナル抗体で認識される糖鎖抗原が通常型膵癌組織に特異的に発現していることが明らかになった(学会発表予定)。次に、本研究で得られた糖鎖抗原解析の結果を臨床応用するため、膵癌患者の臨床データを収集し整理した。まず、膵腫瘍の臨床像、進展度、転移の有無等につき詳細に検討し、予後因子などを規定した。さらに予後調査を実施し、長期予後を含む臨床データベースを作成した。現在、この臨床データベースと糖鎖抗原に関する免疫組織化学的解析データから、糖鎖抗原発現の臨床的意義を探求しつつある。
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