癌研究の成果により癌の診断や治療法は明らかな進歩をとげているが、高転移癌を始めとする悪性度の高い癌の形成のメカニズムは依然として不明である。その解明のためには予後の結果と種々の因子・遺伝子の変化の相関の意味付けは非常に重要であると考えられるが、現在のところ主として行われているアプローチは臨床病理学的解析に留まっており、今後は更に分子の機能にまで踏み込んだ研究が必要である。 我々は予後不良とp27/Skp2経路の異常の関係に注目し、p27/Skp2経路に異常を持ったモデル癌細胞を用いた解析によってより直接的にこの経路の破綻がもたらす形質の変化を証明できると考え、p27/Skp2経路に変異を導入された癌細胞や実験動物を材料にして、予後に影響する発現変動因子を同定するためにマイクロアレイ解析などによる網羅的探索・検証を行った。 その結果、Skp2の新たな標的遺伝子と考えられる興味深い候補分子群を同定することができた。このうち、増殖抑制因子Tob1に注目しSkp2との分子生物学的関係を検討した。Tob1はGO-G1停止を誘導する増殖抑制タンパクであり、サイクリンD1のプロモーター活性を負に制御している。また、Tob1欠損マウスでの腫瘍発生やヒト癌腫での発現減少から腫瘍抑制因子であることが示唆されている。 我々の実験結果から、Skp2とTob1は互いに特異的な結合サイトを有し、Skp2はTob1のユビチキン化を介したタンパク分解を促進するユビキチンリガーゼであることが判明した(Cancer Res.2006)。
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