【はじめに】PTENは様々な癌において遺伝子変異や片側遺伝子座の欠失(LOH:loss of hererozygosity)が生じており、新しい癌抑制遺伝子の一つと考えられている。また、通常PTENはAKTのリン酸化を抑制しているため、PTENの異常はAKTの活性化に繋がり、抗癌剤耐性にも関わると考えられている。今回我々は、消化器癌におけるPTENのLOHとAKTリン酸化の臨床的意義、さらに抗癌剤感受性についても検討を加えたので報告する。【対象と方法】当科において1996年から2001年までの間に切除された消化器癌230例(胃癌119症例、大腸癌111例)を対象とし、PTENのLOHを2カ所のマイクロサテライトマーカーを用いて解析した。癌において片側の遺伝子座のピーク値が30%以上減少をしているものをLOHと判定した。またAKTは、リン酸化抗体を用いた免疫染色を行った。抗癌剤感受性については新鮮摘出標本を用いたMTT assayを行った。【結果】胃癌では、PTENのLOHは判定可能症例のうち17.1%(13/76)で認められ、pAKT(リン酸化AKT)は28.9%(22/76)で陽性であった。また、PTENが正常な症例では20.5%にしかpAKTが観察されなかったのに対し、PTENがLOHの症例では、77.8%がpAKT陽性であり、明らかにPTENがLOHの症例でAKTがリン酸化されていた(p=0.0008)。大腸癌ではPTENのLOHは22.0%で、pAKTは29.6%に認められたが、pAKTの間に有意な関係を認めなかった。胃癌では、pAKT陽性の症例で5-FUやCDDPに対して有意に抗癌剤耐性であり、LOHが陽性の症例は予後が不良であった。【考察】胃癌において、PTENのLOHがAKTのリン酸化に関わることが示唆された。AKTのリン酸化による活性化は細胞のアポトーシスを抑制することが知られ、抗癌剤の感受性と関わる可能性がある。またPTEN LOH群の予後が不良であることより、今後は臨床的な検討を進めていく必要がある。
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