研究概要 |
近年,胃癌における分化形質発現の臨床病理学的意義が検討されている.胃腫瘍はhuman gastric mucin(HGM;腺窩上皮型粘液マーカー)・MUC6(幽門腺型粘液マーカー)・MUC2(杯細胞型粘液マーカー)・CD10(吸収上皮細胞刷子縁マーカー)の発現パターンから,胃型・腸型・胃腸型腫瘍に分けられる.我々は,これまでにHGM発現を示す腫瘍は腹膜再発,CD10発現を示す腫瘍は血行性再発をきたす危険性が高いことを報告した(Br J Cancer 2004;91:1342-8).今回,胃癌組織を用いてcomparative genomic hybridization(CGH)解析を行ったところ,5p14・7q21.3・7q31・7q36・22q11.2を腹膜転移と関連する染色体異常領域であることがわかった(Cancer Genet Cytogenet 2005;161:57-62). 胃癌の分化形質発現からみたCGH解析の結果,HGMは19q13.219q13.3,MUC6発現は20q13.2,CD10発現は19p13.3流域の染色体異常に関連していることがわかった.胃型・腸型別では5p15.2・13q33-34領域の染色体異常の頻度の有意差がみられた(J cancer Res Clin Oncol ; Epub ahead of print). 胃腺腫は分化型胃癌の前癌病変とされている.胃腺腫は分化型胃癌に比べてCD10発現・腸型腫瘍・APC遺伝子変異に相関,HGM発現・MUC6発現・p53遺伝子変異に逆相関する.早期分化型胃腫瘍においてAPC遺伝子変異はCD10発現・腸型腫瘍に相関,HGM発現・MUC6発現に逆相関する.Microsatellite instabilityはMUC6発現・胃型腫瘍に相関,CD10発現に逆相関することがわかった(World J Gastroenterology ; in press). これらのことから,胃腫瘍における分化形質発現は遺伝子異常や生物学的特徴と密接に関連していると考えられた.今後さらに,分化形質発現とDNAメチル化との関係を検討していく予定である.
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