本研究は、NK4(HGFアンタゴニスト)遺伝子導入、もしくはリコンビナントNK4を添加した腫瘍細胞を用いて、細胞外基質(ECM)、血管内皮細胞への接着が抑制されるか否かを検討することで、消化器癌の遠隔転移予防に対する新しい治療戦略の開発を目的としている。昨年我々は、NK4遺伝子導入マウス大腸癌細胞株(CT26-NK4)を用いた腹膜播種モデルにおける転移抑制効果について検討し、インテグリンを介した腫瘍細胞とECMとの接着が関与している可能性を見いだした。しかしインテグリンの発現そのものは変化しておらず、HGFからのinside-out経路(細胞内シグナルを介したインテグリンの活性化)がNK4によってブロックされたと推察した。今年度、我々はCT26-NK4を用いた肺転移モデルにおいても転移個数が著しく減少していることに着目し、同様に血管内皮細胞への接着抑制が肺転移抑制に関与しているのではないかという仮説をたて、そのメカニズムについての検討を行った。in vitro腫瘍細胞一血管内皮細胞接着アッセイを行ったところ、HGFによって増強した細胞間接着はリコンビナントNK4添加により抑制された。また、インテグリンの裏打ち蛋白である、focal adhesionkinase(FAK)のリン酸化を調べたところ、やはりHGFによって増強したリン酸化はNK4添加によって減弱した。細胞表面のインテグリン発現に変化なく、そしてこれら腫瘍細胞一血管内皮細胞間接着、FAKのリン酸化の増強はNK4のみならず抗HGF抗体によってもブロックされたことから、HGF/c-Met経路を介してインテグリンのinside-out経路がブロックされ、結果インテグリンの活性化が抑制されたと結論づけた。来年度、これらデータを、学会並びに誌上で発表予定である。
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