本研究の目的は、胸部大動脈瘤のCT画像から3次元有限要素モデルを構築し、有限要素解析を行うことによって胸部大動脈瘤全体の応力分布図を作成することである。従来のモデルは、CT画像をトレースし、補間関数を用いて再構成していたが、複雑な形態となった場合、実際の大動脈を再現できないという問題点があった。本年度の研究目的はこの問題点を改良し3次元構築ソフトを用いて再構築した上で有限要素解析を行い、胸部大動脈瘤全体のストレス分布を作成することである。正常例および胸部下行大動脈瘤と診断された症例2例を対象としCTは2.5mm間隔で撮影された造影CTを用いた(従来法では10mm間隔)。症例は比較のため既に解析された症例を用いた。3次元構築ソフト3D-Doctorを用いて軸方向のCT画像をトレースし、これを各断面にて行った。自動的にトレースする方法の開発を試みたが、造影CT画像では大動脈と肺動脈、大動脈瘤内の壁在血栓と周囲組織の分離が困難であり、結局はマニュアルでトレースした。この方法で3D-Doctor上で再構築された3次元データをIGESの形式で保存した。IGESデータを有限要素解析ソフトANSYSに入力し、meshing操作を行ったところ構造が複雑にすぎる形状は解析不能となるため再度3D-Doctor上で単純化の作業が必要であったが、これにより解析は可能であった。その後、壁厚、弾性率、拘束条件、血圧(脈圧60mmHg)を付け加え計算を行った。正常例の解析結果では大動脈弓部小弯側に、胸部大動脈瘤例では大動脈瘤の起始部から中腹にかけて最大相当応力部位を認めた。これらの結果は従来法で行ったものとほぼ同様の結果であった。これにより、胸部大動脈の弓部には比較的大きな応力が作用すること、および胸部大動脈瘤では瘤径のみならず瘤の形態が応力に関与することが示唆された。
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