研究概要 |
本年度は,生体内と同様の拍動圧及び拍動流環境でかつpH及び二酸化炭素濃度を生理的範囲に合致させることが可能な,一般的なインキュベータによる2次元培養を凌駕する生理的3次元バイオリアクターの開発を中心に行った.心臓の機能を代行する拍動ポンプ,僧帽弁及び大動脈弁の機能を代行するポリウレタン製人工弁,全循環システムの血管コンプライアンスを調整するシリコーン製弾性管,末梢抵抗ユニット,静脈リザーバ要素,及び二酸化炭素及び酸素を連続的に供給するガス交換ユニットをそれぞれ製作し,最終的に生理的拍動循環バイオリアクターシステムを創った.拍動ポンプは,拍動数が毎分40回〜210回,収縮時間比が10%〜90%の間で自由にコンピュータ制御できるようにし,胎児から大人まであらゆる循環環境を創出可能なシステムを組み上げた.酸素濃度が14%で二酸化炭素濃度が5%,6%,7%,8%,9%,10%のガスボンベをそれぞれ用意し,ガス交換ユニットにガスを供給して拍動循環を行い,循環システムの各部位での培養液中のガス濃度を計測した.その結果,拍動循環中は,供給するガス濃度に対応して各部位で二酸化炭素濃度,pH,酸素濃度を一定に保てることが判明した.また,拍動循環を止めて12時間後に循環システムの各部位でpH及びガス濃度を測定したところ,動脈コンプライアンスチューブ近傍では他の計測点と比較して有意に二酸化炭素濃度が低下し,pHが上昇することを確認した.これは,シリコーンの高いガス透過特性によるものであることがわかった.一方,ガスタンクの二酸化炭素濃度を予め調整することで,循環培養液のpHを7.35〜7.45,二酸化炭素濃度を約5%に調整できることが明らかとなり,生理的pH及び二酸化炭素濃度でかつ拍動圧及び拍動流を作用させて血管及び心臓弁を培養できる生理的3次元拍動バイオリアクターシステムを創ることに成功した.
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