一旦損傷した中枢神経の軸索は成熟動物では再生不能であるが、その原因としてミエリン由来軸索伸展阻害因子の存在が指摘されており、現在までに3種類の蛋白が単離されている。その一つであるmyelin-associated glycoprotein(MAG)は、中枢神経損傷時に、一回膜貫通型構造の細胞外ドメインがプロテアーゼにより切断され、損傷周囲部に溶出してくることがわかっているが、その詳細な機能は全く不明である。 私はIn vitroにおいて免疫染色法にて、MAGがその受容体であるp75NTRと共に、後根神経節細胞の神経軸索内に取り込まれることを見い出した。また、p75NTRを蛍光で標識した後に、神経細胞をMAGで刺激し、蛍光画像を経時的に観察した。蛋白が受容体と共に、軸索からもとりこまれ、軸索から細胞体に運ばれることを証明した。 また、MAGの刺激により、smallGTPaseのRap1が活性化され、それが神経細胞の生存維持と深く関わっていることをTUNEL法を用いて証明した。また、HEK293細胞及び、神経細胞を用いた検討により、p75NTRは活性型のRap1と結合することが証明された。また、後根神経節細胞と坐骨神経を一塊にして取り出し、培養することにより、軸索輸送に関して詳細に検討した。In vivoにおいても、p75NTRが軸索輸送され、また、Rap1Aの活性化が神経細胞の生存維持と深く関わっていることを証明した。このことにより、MAGは軸索伸展阻害作用と共に、神経細胞の生存機能に深く関わっていると考えられた。
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