p16遺伝子を導入された悪性グリオーマ細胞が、多核化を引き起こされることは、p16が直接的に関与するG1-S期以外に、G2-M期の各種因子も関与していると考えられる。 そこで、本年度はG2-M期に関わる因子に焦点を絞って、悪性グリオーマ細胞の核形態異常を引き起こされる機序を検討した。まず、従来から我々の教室で研究を続けているSurvivinをターゲットとした。Survivinは細胞分裂に密接に関与し、その発現が悪性グリオーマ患者の予後不良因子となっている。我々はその細胞内局在を調べ、細胞質と細胞核の両方が染色される症例群が、個別に染色される症例群よりも予後が不良であったことを突き止め、Survivinは細胞内の局在によって、その働きが異なっていることが考えられた。Survivinの発現が抑制されると放射線感受性が高まることが予想されたので、実際に悪性グリオーマ培養細胞のSurvivinをblockしたところ、放射線感受性は高まった。その際、異数体細胞の割合が増加し、中心体数の異常な増加を認め、染色体不安定性が誘発されたと考えられた。これらの変化は、放射線照射後のp16遺伝子導入でみられた多核化にも類似している現象であり、現在、Survivinを含めたG2-M期の因子から、p16に関わるかもしれない因子の絞り込みも進めている。 また、G1-S期は、細胞分裂の「ライセンス化」を介して細胞分裂にも影響している。そこで、ライセンス化に関わる因子のGemininを検討した。すると従来は予後不良因子とされてきたGemininは、悪性グリオーマ患者での検討を行うと、その発現の強い方が予後良好である、といった従来とは逆の結果を得るに至った。従来の検討とは異なり、悪性グリオーマ患者では全例、放射線照射を行っていることも理由の一つと考えられ、Gemininが放射線感受性に関与していることが示唆された。今後は、Gemininについても更に検討し、細胞の多核化が放射線感受性を高める現象を解明し、結果として悪性グリオーマ患者の治療予後を向上させることを目指していきたい。
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